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2012年9月19日 (水)

愛しの根魚(ねうお、ねざかな)

のどぐろ会ではじめて知った魚たちの名称。根魚。
広辞苑によれば「常に岩礁の間、または海藻の茂る所に生息して、その場所から遠く移動しない魚。メバル、カサゴなど」
つまり、けっこう海の深めのところにいて、じっと動かない魚たちのことらしい。ひきこもりタイプなのかな。
もちろん、のどぐろ様は抜群においしかったけれど、ひょっとすると私はこの小さな根魚たちの方が好みかもしれない。
翌日、残った根魚でうち流の潮汁を作り、あとは味噌漬けにしてみた。

Photo
カサゴの潮汁


私は幼いころから「鯛、平目、海老、カニ、ふぐ」よりも青魚(ひかりもの)や川魚が好きだった。
江戸っ子の末裔だからかもしれない。
そういえば女優だった私の伯母の末期の一食は、なんと「どぜう汁」でした。
活きたどぜうを熱湯に落とし、すぐに蓋をして静かになったら味噌で味をつける。他には何も入れない。吸口に山椒の粉をふるくらい。
このなんとも泥くさくて苦い汁が江戸っ子たちの好物なのだ。
何故なのだろう。
私が思うに、かつて江戸という巨大な町が造られ、そこに呼び集められやがて「江戸っ子」となる人々は、自分たちの土地を持つことなどできない人々だった。
あらかじめ失われた土の記憶。だから無意識のうちに土の匂い(泥くささ)を懐かしんでたのではないかしら。
江戸っ子は洗練された味よりも、プリミティブな味や匂いが好きだ。
そんな江戸っ子であった伯母は末期のガンで死につかまる四日前、私の耳もとで囁いたのだ。
「ど・ぜ・う・じる……ど・ぜ・う・じる……」
まさかとは思ったけれど、伯母の耳もとできいてみた。「どじょう汁、食べたいの?」。
伯母は眼を閉じたままわずかにうなずいた。
その一品は私が作り、翌日小さめの魔法瓶に入れて病院へ持っていった。
伯母は痩せ細った体で半身だけ起きあがると、椀によそったどぜう汁を「がぶっ」とひとくちだけ飲んだ。
それを見ていて、なんだか凄いなぁ、怖いなぁと感じたのを覚えている。七月の、ジリジリと残照が照りつける、夏の夕刻だった。
今でも伯母の命日が近づくと、どぜう汁のことを思い出す。近ごろではあまりお目にかかれなくなった活どぜうを売っている店を探して、苦くて泥くさいどぜう汁を作ってしまう。


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