母からのレシピ帖
私の大好きな料理も、うちの定番料理も、たいていのものがこの古ぼけたレシピ帖の中にあります。母から私へ、もう50年以上書き継がれています。
私の母はとても大人しいひとで、近くの商店街へお使いに行くほかはいつだって部屋の隅っこに坐って繕い物をしたりシューシュー蒸気をあげながらアイロンをかけたり、気がつくと台所に立って料理の支度をしていました。
そんな母は外食をしたことがほとんどなくて、「だから、めずらしい料理なんて知らないもの。勉強しなくちゃね」とけなげにも言って、幼いころから食いしん坊だった私をよろこばせようと書き始めたのがレシピ帖の始まりでした。
写真のレシピ帖以前にも2冊、シミがついて表紙なんかも破れかけた大学ノートがあったのだけれど、幾度かの引越しで見失ってしまった。
最初の2冊が母、3冊目が共作で、あとは私の代になった。母は私が30代の半ばで亡くなってしまったから。

今でもレシピ帖をひらいて、思い出の料理を作ったりする。
母も私も料理のこと以外ではメモなんか取ったこともないのに、おいしいものを食べたり聞いたり読んだりすると、思わずレシピ帖に書き留めたり切り抜きを貼り付けてしまう。
私なんか取材でもメモを取らないので心配されるが、そんな時は「覚えていることが大切なことなの」と言うことにしている。ただメモが苦手なだけですが。
でも、料理のことは別。この面倒くさがり屋の私が毎晩の献立てだけは紙に手書きして壁に貼り付けております。こうした方が料理の手順がうまくいくからです。
こんなに溜まってしまったレシピ帖の料理を全部作るなんて一生かかってもできそうにない。あと2,3回はよみがえって、せっせと作らなければ消化できないかも。
もしも「自分は何のために生きているんだろう」などということで迷ったり行き詰まったりしたら(そんなむずかしいことは滅多に考えませんけど)、母が私のために始めてくれたレシピ帖の料理をひとつでも多く作ってあげよう。
だから今日も台所に立ち、おいしいごはんを作ろうと思う。
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